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大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)1172号 判決 1964年4月10日

承継参加人 村橋勇

脱退控訴人 本州製罐株式会社

被控訴人 山東町梁瀬農業協同組合

主文

参加人の請求を棄却する。

参加により生じた訴訟費用は参加人の負担とする。

事実

参加人は、「前判決を棄却す。被控訴人は参加人に対し金九八万〇二六六円及び内金五〇万円に対する昭和三三年二月二七日より同年三月一五日まで年五分、同月一六日より右完済まで年一割、内金四万六三五一円に対する同年三月一六日より、内金二〇万円に対する同年四月二一日より、内金七万九〇〇〇円に対する同年四月一六日より、内金一〇万六〇四〇円に対する同年六月二一日より各完済まで年六分の各割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。との判決を求め、

その請求の原因として、

一、控訴人(一審原告)は被控訴人(一審被告)外一名に対し本件債権(右当事者間の神戸地方裁判所昭和三三年(ワ)第六九四号約束手形金請求事件についての原判決事実摘示のとおり)の請求訴訟を神戸地方裁判所に提起したが被控訴人に対しては敗訴したので、控訴人は被控訴人に対し本件控訴(当庁昭和三七年(ネ)第一、一七二号)を提起し、右訴訟は係属中であるところ、控訴人は昭和三七年七月二四日参加人に対し、被控訴人に対する本件債権を譲渡し、同月二五日到着の書面で被控訴人に対し右譲渡の通知をなした。よつて参加人は民事訴訟法第七三条により当事者として参加し、被控訴人に対し請求趣旨記載の判決を求める次第である。

二、参加人の本訴において請求する金員は次のとおりである。その詳細並に被控訴人の主張に対する反駁については原判決事実摘示中控訴人の主張のとおりであるからここにこれを引用する(但し次記にていしよくする部分はこれを次記のとおり補正する)。

(一)  金五〇万円。原判決事実摘示請求原因(一)記載の貸金であつて、右は訴外川勝禎一が昭和三三年二月二七日に被控訴人と訴外山東食品株式会社を連帯債務者として、利息の定めなく弁済期を同年三月一五日として貸付けた元金である。右は被控訴人の会計検査前に訴外会社より緊急に被控訴人に返済又は預金する必要に迫り右の如く訴外川勝が貸与したものである。よつて右元本及び貸付日より弁済期迄は民事法定利率年五分の割合による利息、弁済期の翌日より右支払済にいたるまでは利息制限法所定年一割の割合による損害金、の各支払を求める。

(二)  金四六、三五一円。右請求原因(二)(イ)記載の二五万円の売掛金の残金(但し、昭和三二年一二月二五日に弁済期を昭和三三年三月一五日の約で売渡したもので、訴外(一審被告)山東食品株式会社よりその後金二〇三、六四九円の支払があつたのでその残金。

(三)  金二〇万円。右請求原因(二)(イ)記載の売掛金で、昭和三三年一月二五日売渡、弁済期は同年四月二〇日の約定のもの。

(四)  金七九、〇〇〇円。右請求原因(二)(イ)記載の昭和三三年二月一四日の売掛金で、弁済期は同年四月一五日の約定のもの。以上(二)ないし(四)は訴外山東食品株式会社の買掛金に対し被控訴人が重畳的債務引受をなしたもの。

(五)  金四万八、八七六円。前記(二)記載の二五万円の内入金二〇万三、六四九円に対する未払遅延損害金(昭和三三年三月一六日より支払日まで年六分の割合)。

(六)  金一〇万六、〇四〇円。右請求原因(二)(ロ)記載の売掛金で契約は昭和三三年五月一日で、同年六月一日迄に引渡済の一、〇七二罐の代金で、弁済期は昭和三三年七月二〇日の約定。但しこの分は被控訴人の単独債務。右(二)ないし(四)および(六)の債権はいずれも商行為によりて生じたものであるから右各弁済期の翌日より各完済まで年六分の割合による遅延損害金をも併せ請求する。

三、被控訴人の本件債権譲渡についての信託法並弁護士法違反の主張並に被控訴人の権利能力についての主張は否認する。と陳べ、被控訴代理人は本案前の申立として、「参加人の参加申出を却下する。参加申立費用は参加人の負担とする。」との判決を求め、その理由として、控訴人より参加人に対する債権譲渡はこれを争う。かりに右譲渡がなされたとしても、(一)右債権譲渡は訴訟行為をなさしめることを主たる目的とした信託行為であるから無効である。すなわち。(1) 本件債権譲渡証書(丙第一号証)によれば、本件債権の売渡代金は勝訴判決確定より費用を控除した金額の二分の一とし、敗訴の場合は無償とし、訴訟費用は全部参加人の負担とし、決済日は本件判決確定の日と定められており、右契約は参加人が訴訟行為をなすことを当然予期し、これを主たる目的とする信託行為であること明白である。(2) のみならず、本件債権は訴訟中の債権で控訴人(一審原告)の控訴申立と同日譲渡が行われている。(3) 参加人は一審において、控訴人の支配人として終始訴訟に関与していたが、弁護士でないのに、訴訟資料の提出、認否、証人尋問技術に練達し、(4) 本件以外にも神戸地裁及び同簡裁において多数の訴訟を当事者本人として追行している。(二)なお右譲渡は弁護士法第七三条に違反し無効である。すなわち、参加人は弁護士でないのに他人の権利を譲受け訴訟等の手段によつて権利実行をすることを業としている者で本件債権譲渡もその一としてなされたものである。本件債権譲渡証書(丙第一号証)には前記の如き約定の記載がある。すなわち参加人は勝訴確定せば本訴請求金の半額を取得する契約であつて、参加人が業として利益を得るものであることは明かである。と陳べ、

本案につき、「参加人の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁として、

一、参加人に対する本件債権譲渡は前記のとおり信託法第一一条弁護士法七三条に違反するから無効で、参加人は本件債権を取得していない。

二、参加人主張の五〇万円の債務(請求原因(一))について被控訴人が訴外山東食品株式会社と連帯債務負担をしたことは否認する。

三、訴外会社の罐詰用罐の買入代金(参加人主張の請求原因二の(二)ないし(四))について被控訴人が重畳的債務引受をしたことも否認する。

四、参加人請求原因二の(六)の請求について。被控訴人は訴外会社と共同買付をしたことは認めるが、その趣旨は非組合員である訴外会社の物資購入につき訴外会社に信用がなかつたためその保証をしたものである。そしてこのようなことは被控訴人の事業の範囲に属せずまたその事業に附帯する事業でもないから、後記(六)のとおり被控訴人の権利能力の範囲外に属し、無効である。

五、かりに参加人主張の請求原因二の(一)ないし(四)の事実が認められるとしても、右のような債務負担行為は非組合員たる訴外会社のための債務引受又は保証であつて、このような債務引受又は保証は後記(六)のとおり被控訴人の事業目的の範囲外であるから無効である。

六、農業協同組合(以下農協という)の権利能力について。

農協は「農業生産力の増強と農民の経済的社会的地位の向上を図る」(農協法第一条)ために、小規模の事業者であり消費者である農民によつて構成されたものであるからこれらの農民の利益保護のため組合は定款所定の事業遂行のために、必要な範囲内においてのみ権利能力を有する。また定款所定の事業遂行に必要か否かの判断にあたつても協同組合の特殊性を考えて、会社の能力の範囲の判断よりも、厳格に解すべきである。被控訴人の定款第二条(別紙<省略>のとおり)には被控訴人の行いうる事業の範囲が列挙され、それは農協法第一〇条第一項に掲記と略同様である。農協の権利能力をこのように制限的に解しても農協法自体にそのなしうる事業範囲が明示されているから第三者に不測の損害を与えることはない。この点が営利法人たる会社の権利能力とのちがいである。そして本件のような被控訴人の債務負担行為は定款第二条第一項第七号又はその附帯事業(十三号口)にも該当しない。と陳べた。

証拠関係<省略>

理由

一、本案前の抗弁について。

被控訴人は参加人主張の権利譲受を争い、かりにこれありとするも本件債権譲渡は信託法第一一条、弁護士法第七三条違反で無効であるから本件参加は不適法として却下さるべきものという。

しかしながら本件訴訟参加は民訴法第七三条によるもので、この場合は承継人の方で自ら進んで訴訟承継をするために訴を提起するもので、同法七四条(同条は債務承継についてのみ規定しているけれども権利承継についても相手方の引受申立を認めると解する)の如く従来の当事者の相手方(前主の相手方)から承継人(第三者)に対し引受申立をする場合と異り、承継当事者間に承継について争がなくとも(本件においても控訴人と参加人との間には債権譲渡について争がない)、従来の当事者の相手方(前主の相手方、すなわち本件被控訴人)との間には承継について争がありうべく(法第七四条により引受を申立てる場合は引受申立人が前主の相手方である以上承継について争はありえない)、右争の存否にかかわらず、参加人の訴につき訴訟要件を欠くときは不適法として判決で却下すべきであるが、承継参加(民訴七三条)の場合における権利または債務の承継の主張は、独立当事者参加(民訴七一条後段)の場合における「訴訟の目的の全部または一部が自己の権利たることの主張」と同じく一種の訴訟併合の要件であるにすぎぬものであるから、この要件を充足するかどうかは、本訴の請求と参加人の参加によつてする請求の趣旨及び原因並びに承継の主張によつて判定すれば足り、この請求原因や承継の主張が理由あるか否かに拘らない。従つて本案審理の結果請求の目的たる権利が否定せられるときは勿論のこと、承継の事実が否定せられる場合においても、参加が不適法となるのではなく、請求が理由のないものとして請求棄却の本案判決をなすべきものと解する。すなわち、本件において債権譲渡がもし不存在又は無効であつても、それは参加の不適法を招来するものではないからこの点については本案について審理することとし、本件参加訴訟について他にこれを不適法とする事由は見当らないのでこれを許容すべきものと解す。

二、本案についての判断

(一)  成立に争のない丙第一号証、同第二号証の二、郵便官署作成部分について成立に争なく、弁論の全趣旨によりその他の部分も真正に成立したものと認むべき同第二号証の一、によれば参加人は昭和三七年七月二四日その主張に係る債権を控訴人より譲受けたとしてその翌日被控訴人に到達の書面により右債権譲渡の通知が譲渡人たる控訴人(脱退)より被控訴人に対しなされたことが認められる。

(二)  被控訴人は右債権譲渡は信託法第一一条、弁護士法第七三条に違反して無効であるというので、考えてみるに、前記証拠に各成立に争のない乙第二号証同第三号証の一、二を綜合すると、本件譲渡の目的たる債権は訴訟により係争中の債権であつて、原審において参加人は控訴会社の支配人としてその資格においてその代理人として訴訟行為をしてきたが、控訴会社が敗訴したこと(この点は本件記録上明かである)、参加人は昭和三七年五月二八日支配人を辞任し、同年六月一一日その登記がなされたこと、債権譲渡契約証書(丙第一号証)によれば、「譲渡代金は参加人勝訴判決確定より費用を控除した金額の二分の一とし、敗訴せば無償とする。その決済日を右確定の日とし、訴訟費用は全部譲受人の負担とする事を条件とする。」旨記載されていること、参加人を原告として第三者を被告として参加人は昭和三三年一月一日以降昭和三八年四月二〇日迄に神戸地方裁判所に六件、神戸簡易裁判所に六件の各民事訴訟を提起しており、内訴名「譲渡債権」なるもの計二件「建物収去土地明渡」なるもの七件「土地明渡」なるもの一件、「売掛代金」なるもの、「手形利得償還金」なるもの各一件あることが各認められ、右認定を左右する証拠はない。

以上の認定事実からみると本件債権譲渡は参加人が訴訟行為をなすことを当然予定し、参加人が訴訟に経験を有し、堪能であるところから脱退控訴人が参加人をして本件債権取立訴訟を追行せしめ、勝訴判決を得て、取立の実をあげるべく、只控訴人は一審において参加人をして支配人として訴訟行為をなさしめて来たが参加人が支配人の地位を辞任した関係上控訴会社の名において控訴すると共に右訴訟遂行の便宜上即日参加人に対し本件係争債権譲渡の形式をとつたが、実質は控訴人、参加人間の債権取立の委任であつて、結局において右債権譲渡は訴訟行為をなさみめることを主たる目的としてなした信託行為であると認定することができる(昭和三六年三月一四日最高裁第三小法廷判決、民集一五巻三号四四四頁参照)。既にこの点において参加人の本件債権譲受行為は信託法第一一条に違反して無効であるから、その有効なることを前提とする参加人の被控訴人に対する本訴参加請求は爾余の争点について判断するまでもなく、失当として棄却すべく、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

なお附言するに脱退控訴人の被控訴人に対する本件債権は本件債権譲渡の無効なる以上控訴人の債権として復活すべく、その債権の存在が若し認められるならば控訴人の請求は認容せられることとなるが、控訴人は既に有効に脱退しており、脱退により参加人と被控訴人間の残存訴訟の勝敗の結果を条件として脱退者(控訴人)は参加人及びその相手方との間の請求について予告的に放棄又は認諾をしているもの、すなわち本件の如く被控訴人勝訴すれば脱退控訴人は控訴人の被控訴人に対する請求を放棄する旨予め宣言するものであるから、もはや右債権に基いて被控訴人に請求するに由なく、また控訴人の控訴は脱退により消滅し訴訟は判決によらず、終了したものであるから控訴については別に判決をせない。

(裁判官 宅間達彦 増田幸次郎 井上三郎)

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